ちゃんちゃんこと半纏、どてらの違いは?それぞれの歴史や方言も解説
現在の中高年世代にとって、ちゃんちゃんこは子供のころに着ていた懐かしいアイテムですよね。
冬の寒い日、セーターの上にちゃんちゃんこを羽織り、こたつに入ってみかんを食べたり夜中まで受験勉強に励んだりといった思い出をお持ちの方もいるでしょう。
今でもお年寄りには愛用者が多いですよね。
しかし若いかたにとっては、「ちゃんちゃんこ?何それ?」という方も少なくないでしょう。
そこで今回は、ちゃんちゃんことは何なのか、半纏やどてらなど他のよく似た間違えやすい和服と併せ、その違いや歴史を徹底解説いたします。
また、ちゃんちゃんこという名前の由来や、地域による呼び名の違いなどを探り、昭和世代には懐かしい、平成世代にはレトロで新鮮なちゃんちゃんこの魅力をたっぷりとご紹介いたします。
目次
1. ちゃんちゃんことは?
ちゃんちゃんことは袖なしの羽織のことで、ほとんどの場合、綿入れの防寒着を指しています。
子供や老人が着用することが多く、袖がないため着脱がラクで、家事や作業がしやすいというメリットがあります。
襟が裾まで続き、前に付いた胸紐を結んで着ますが、前身頃の布は重なり合わないため、下にセーターなど衣類を着込む必要があります。
しかし、綿が入っているため布団をしょっているかのように温かく、いったん羽織るとなかなか脱ぐ気になれません。
昔はエアコンがなかったため、冬場は室内でも冷えており、ちゃんちゃんこが大きな役割を果たしていました。
今でもちゃんちゃんこを羽織ると暖房を必要としないほど温かく感じるため、着出すと手放せなくなるようです。
ちゃんちゃんこという名の由来
なぜ、ちゃんちゃんこと呼ばれるのかは諸説ありますが、最も有力なのは飴売りが着ている衣装から来たというもの。
江戸時代、袖なしの羽織を着た清国の子どもが、鉦をチャンチャンと叩きながら飴を売り歩いていたことから、子供の着る袖なしの羽織をちゃんちゃんこというようになったといいます。
また農作業などの仕事が、袖なしのためチャンチャンできる(=テキパキできる、ちゃんとちゃんとできる)ことから、ちゃんちゃんこと呼ばれるようになった、という説もあります。
いずれにせよ「ちゃんちゃん」という言葉の響きがかわいらしく、印象に残るネーミングですよね。
ちゃんちゃんこと似た和服、それぞれの違いと歴史
ちゃんちゃんこは袖なしの羽織、とご紹介しましたが、「羽織って何?」というかたもいらっしゃることでしょう。
また、ちゃんちゃんこは半纏(はんてん)やどてらと同じなのか、など似た和服と混同されることが多いため、それぞれの特徴について由来とともに解説いたします。
そもそも羽織って何?
一般的に着物といったら丈がくるぶしまであるもの、と思いますよね?
これは正確には長着といい、羽織とは長着の上に羽織る和風のカーディガンと思えばいいでしょう。
羽織だけでは体全体をくるめないため、まずは長着でしっかりと体を包み込み、その上から着用します。
ちゃんちゃんこがセーターなどを着込んだ上で、さらに羽織るのと一緒です。
羽織は戦国時代、鎧の上から羽織る防寒用の陣羽織として登場して以来、日常着として定着し、江戸時代には広く町人にまで伝わりました。
しかし脇に襠(まち)があって袖が長く、胸紐があり、襟を返して着る袷(あわせ。表地と裏地が合わさったもの)である羽織は格式が高いとされ、着用できるのはせいぜい大店の番頭クラスまでで、一般庶民は着用できないという暗黙のルールがありました。
現在でも羽織を身に着けるのは、男性の場合、和服の正装とされるほど格が高く、フォーマルな装いです。
一方、女性は打掛(うちかけ)といって、現在では結婚式でしか見かけない美しい長着を羽織るのが正装とされ、羽織が広まったのは明治期以降です。
花柳界から伝わり、明治から大正にかけて膝下丈の羽織が大流行しました。
今でもレトロなアンティーク着物で見つけられますよ。
女性の羽織がフォーマルな衣装とみなされるようになったのは、既婚女性が羽織る黒紋付が登場してからです。
黒紋付、色紋付、絵柄の入った絵羽織の3種類あり、これさえ羽織ってしまえば格式の高い礼装となることから、昭和50年代くらいまでは主婦に大変重宝されていました。
今の中高年の中には、入学式の付き添いに母親が羽織を羽織った和服姿だったという方も多いのではないでしょうか。
現在は成人式以外、和服をほとんど見かけません。
同時に冬のねんねこ半纏やかいまき、どてらといった和の防寒着も姿を消しつつあるようです。
どてら
冬に着る綿入りの長着がどてら(褞袍)です。
関西では丹前と呼ばれることが多く、室内で着る布団のような和風ガウンと思えばいいでしょう。
実際、どてらは布団にもなります。
かいまき布団といって、どてらの前後を逆にして袖を通し、掛布団として使用すると首周りや肩先がすっぽりと覆われるため、とても温かく眠れます。
今の中高年の中には子供の頃、かいまき布団で寝ていた方も多いことでしょう。
寒さの厳しい東北や北海道では特に愛用されており、かいまきを丹前と呼んでいたようです。
どてら(=丹前)はまた、湯上りに着る防寒衣類でもありました。
昔の旅館では冬場、浴衣の上に羽織る丹前が提供されており、今の中高年世代には懐かしく思い出されるのではないでしょうか。
もともと丹前とは、江戸の有名な湯女が着ていた衣装をいい、その風呂屋(今でいうソープランドのようなところ)に通い詰めていた旗本の使用人たちがこぞって真似たことから広まったといいます。
どてら(=丹前)に縞柄が多いのは、当時の丹前が派手な縞模様であったことに由来しているからです。
どてら(=丹前)は基本的には丈が長いのですが、綿入れ半纏のように丈が腰くらいまでのものをどてら、丹前と呼ぶ地方もあるようです。
半纏(はんてん)
半纏・袢纏・半天・伴天と漢字は何種類もありますが、すべて「はんてん」と読みます。
羽織のように丈が腰くらいまでの短い上着ですが、羽織と違って胸紐がなく、脇に襠(まち)もありません。
襟も折り返さず着用します。
江戸時代、羽織を着られなかった庶民が羽織の代わりとして着出したのが半纏といいます。
そのため羽織が礼装なのに対し、半纏は作業着です。
大工などの職人や火消しなどが着るユニホームのようなものでした。
特に屋号や紋などが入っているものを印半纏(しるしばんてん)と呼び、戦後も広く着用されています。
消防の出初式やお祭り、応援団、セール時に着用する店員の衣装などはすべて印半纏の一種です。
襟に「若睦」「○○消防団」「いらっしゃいませ」などの文字が入っていることが多く、現在、法被(はっぴ)と呼ばれるものはこの印半纏を指しています。
一方で半纏には綿が入っているものがあり、綿入れ半纏と呼ばれ、冬の室内用防寒着となっています。
表地と裏地の間に綿が詰め込まれているため保温性が高く、襟が黒繻子であるのが特徴です。
この綿入れ半纏のことをちゃんちゃんこだと思っている方が多いのですが、正しくは袖のない綿入れ半纏がちゃんちゃんこです。
この綿入れ半纏を大きくしたのが、ねんねこ半纏で、おんぶした赤ちゃんの上から羽織れる便利なガウンコートとして母親たちに大変重宝されました。
今の中高年世代には懐かしい光景として思い出されるのではないでしょうか。
法被(はっぴ)
前述したように現在では印半纏が法被(はっぴ)と同義語になっています。
しかし、もとは法被と半纏には違いがありました。
法被は羽織同様、丈がお尻まであり、脇に襠(まち)があって袖が長く、胸紐があり、襟を返して着る、能や武家の装束から生まれた上着です。
ほとんど羽織と同じですが、違いは羽織が袷なのに対し、法被は単衣(ひとえ。表地だけ)であること。
一方半纏は、丈がお尻の上と法被より短く、脇に襠がない、袖が短く袖口が小さい、胸紐がない、襟を返さないといった特徴があり、江戸の庶民が羽織代わりに着ていました。
半纏は羽織と同じく袷で単衣の法被とは異なりましたが、江戸時代末期になるとその区別はなくなり、半纏と法被の違いはなくなってきました。
しかし格式の点では法被のほうが上で、半纏のほうが下だったと考えられています。
また、江戸は半纏、上方は法被だったともいれています。
現在は印半纏=法被ですが、ただ単に半纏とだけいう場合は、綿入り半纏のことを指し、それ以外は法被(=印半纏)と呼ぶことが多いようです。
改めてちゃんちゃんことは?
袖なしの羽織、袖なしの綿入り半纏といえます。
飴売りの衣装が起源とされていますが、寒い地方の綿入れ半纏を、作業のしやすいよう袖を切り落としたのかもしれません。
あるいは袖なしの羽織では寒いから、中に綿を詰め込んで保温性を高めたのかもしれません。
いずれにせよ衣類は庶民の暮らしの実情に応じて変遷していくもの。
ちゃんちゃんこも羽織や半纏などと同様、時代が移るにつれ様相を変えていったのでしょう。
現代ではちゃんちゃんこといえばたいていは綿入りタイプを指しますが、地域によっては綿なしの袖なし羽織を指すところもあります。
ゲゲゲの鬼太郎が羽織っているタイプですね。
還暦の赤いちゃんちゃんこも同類です。
それでは地域によってちゃんちゃんこがどう呼ばれているか、方言を見てみましょう。
地方によるちゃんちゃんこの別名
時代の変遷をたどったちゃんちゃんこは、地域により呼び名がさまざまです。一例をご紹介しましょう。
東北の「どんぶぐ」
寒さの厳しい東北地方では、ちゃんちゃんこやどてら、綿入れ半纏などを「どんぶぐ」と呼んでいます。
胴服がなまって「どんぶぐ」になったといわれ、宮城県、秋田県、山形県南部で話されているようです。
また、袖なしの綿入れ、つまりちゃんちゃんこに関しては、「つんぬぎ」ともいわれ、筒(袖のこと)がない、脱いだ、抜けた、から転じていると思われます。
冬の寒さをどこよりも痛感している地域ならではの呼び名には、親しみが込められていることがわかりますよね。
西日本の「でんち」
「でんち」は殿中羽織に由来しているとされ、岐阜、愛知の中京から京都、大阪の関西、そして四国一帯にかけて使われています。
同じく殿中羽織から派生したのか、「てんちこ」「てんこ」などと呼ばれている地域もあり、香川県の一部では「でんこ」と呼ばれています。
また、三重県の伊勢では「でんち」、伊賀では「てんちこ」、福井県の大野郡では「でんち」、大飯郡では「てんこ」といったように、同じ県内でも地域により呼び名が変わるところがあります。
現在は同県内でも、かつては別々の藩であったがゆえに、習慣や料理、言葉などが全く異なる場合がありますよね。
西日本一帯は、たびたび歴史の表舞台に登場してきた地域であるからこそ、さまざまな呼び名が派生したと考えられ、豊かな文化を感じさせてくれます。
半纏は「はんこ」
綿の有る無しにかかわらず、半纏や法被を「はんこ」と呼ぶ地域は、岩手、福井、福島、栃木、茨城、千葉、静岡、愛知、長野、滋賀、三重、奈良、和歌山、岡山、広島、徳島、愛媛、高知と多岐にわたります。
半纏(または法被)は広い地域で庶民の生活になじんでいたことがわかりますよね。
「はんこ」といい「ちゃんちゃんこ」といい「○○こ」と愛称で呼ばれるものは、それだけ庶民の生活に密着していたからこそ、親しみを込めて呼ばれるのでしょう。
階級が上の人しか着用できなかった羽織には、こういった愛称はなかったのではないでしょうか。
羽織と半纏は似ていても全く性質の異なるものであったことが、呼び名一つとってもわかります。
このようにざっと見ただけでも様々な呼び名があるちゃんちゃんこですが、九州沖縄地方には固有の呼び名がなかったところを見ると、やはり暖かい地方では必要とされなかったからではないか、と推測できますよね。
その地方でどれだけ庶民の暮らしにかかわっていたか、呼び名を見るだけでもわかるといえます。
まとめ:伝統ある素朴な温かさをもう一度身にまとって
冬の室内用防寒着として着用されるちゃんちゃんこですが、その歴史は古く、江戸時代の飴売りに由来しています。
羽織、半纏、法被、どてらなど、ちゃんちゃんこと混同される似たようなタイプの和服とともにさまざまな変遷をたどった末、現在もしっかりと息づいています。
古き良き時代に思いをいたし、昔懐かしいちゃんちゃんこをこの冬、再び羽織ってみませんか?
若い世代にとっては、レトロで昭和の香り漂う魅力にハマることでしょう。
ほっこりとする温かさに、どうぞゆったり浸ってくださいね。